二期会「タンホイザー」いよいよ本番突入

 

三澤洋史 

写真 三澤洋史のプロフィール写真

驚きのスケジューリング
 2月14日水曜日に苗場スキー場に行った記事を書いたが、その後の二期会「タンホイザー」のスケジュールをざっくりと書き出してみたら、
「こ・・・こんなに長い間、休日がないんだ!」
と愕然となった。
これだもの、スキーも“おあずけ”のわけさ。

2月
15日木曜日 14:00-21:00 通し(&直し)稽古A組 芸能花伝舎
16日金曜日 14:00-21:00 通し(&直し)稽古B組 芸能花伝舎
17日土曜日 17:00-21:30 通し稽古A組 芸能花伝舎
18日日曜日 17:00-21:30 通し稽古B組 芸能花伝舎
19日月曜日 13:00-16:30 オケ合わせA組第1幕 読響黒川練習所
20日火曜日 13:00-16:30 オケ合わせA組第2幕&3幕 読響黒川練習所
21日水曜日 13:00-16:30 オケ合わせB組第2幕&3幕 読響黒川練習所
22日木曜日 13:00-21:00 舞台稽古A組 東京文化会館
(マエストロは、13:00-16:30 裏でオケ合わせB組第1幕 読響黒川練習所 その後、東京文化会館に戻ってきて舞台稽古に合流)
23日金曜日 13:00-21:00 舞台稽古B組 東京文化会館
24日土曜日 13:00-20:30 オケ付き舞台稽古A組 東京文化会館
25日日曜日 13:00-20:30 オケ付き舞台稽古B組 東京文化会館
26日月曜日 14:00- ゲネプロA組 東京文化会館
27日火曜日 14:00- ゲネプロB組 東京文化会館
28日水曜日 17:00- 公演Ⅰ A組 東京文化会館
29日木曜日 14:00- 公演Ⅱ B組 東京文化会館
3月
1日金曜日 13:00-16:00 「トリスタンとイゾルデ」オケ合わせ 新国立劇場
2日土曜日 14:00- 公演Ⅲ A組 東京文化会館
3日日曜日 14:00- 公演Ⅳ B組 東京文化会館

 新国立劇場では、基本的にシングル・キャストなので、節目節目に休日が必ず入るが、二期会ではA組B組というダブル・キャストだし、その反面、芸能花伝舎も東京文化会館も貸し館だから、なるべくタイトに日程を組みたい。その狭間にあって、このようなスケジューリングが組まれるわけだ。

 でも、元々研究団体の色合いが濃い二期会は、休日のことは置いといて、稽古期間そのものは音楽稽古から立ち稽古までたっぷり取って、丁寧に仕上げていく。ダブル・キャストというだけで、普通に考えても「練習量はシングル・キャストの2倍!」ということもあるんだな。
 僕も、80年代後半から90年代までは、二期会で副指揮者や合唱指揮者として、様々な作品にどっぷりと漬かりながら、ひとつひとつを自分のレパートリーにしていった。その蓄積は大きい。また、その間の公演指揮者との交流も密で、若杉弘さんなどをはじめとして様々なことを教えていただいた。
 その点で、僕の二期会時代はかけがえのない時であった。でも、あらためてスケジュールの話に戻ると、東京文化会館に入ってから、舞台稽古AB、オケ付き舞台稽古AB、ゲネプロABと続いて、公演初日も次の日なんだ。

アクセル・コーバーの職人ぶり
 歌手達は交互なのでそれでいいだろうけれど、一番大変なのは指揮者だ。でもね、今回のマエストロであるアクセル・コーバーは、そんなハードスケジュールの中、文句一つ言わず、立ち稽古から丁寧に関わって、それぞれの歌手達に適切なサジェスチョンを与え、通し稽古からオーケストラ練習~オケ合わせ~舞台稽古と、ひとつひとつ段階を踏む毎に確実な成果をあげている。
 僕とは、逢った初日から「アクセル!」「ヒロ!」で呼び合い、とっても仲良し。彼は僕の作る合唱の響きをとても気に入ってくれているし、僕も彼の音楽作りには一目置いている。
 指揮の運動は華やかではない。スター性もない。淡々と、しかし粛々と・・・いやあ、彼は典型的なドイツの“叩き上げ職人”なのだ!ここで僕が使っている“職人”という言葉を勘違いしてはいけない。これはある意味最大限の賛辞で、むしろ“親方”というべきだろう。つまりマイスター。こういう人たちが、ドイツの文化を築いてきたのだ。

読響のドヤ顔
 オケピットに入っている読売日本交響楽団とは、昨年11月、井上道義さんとのマーラー交響曲第2番「復活」や、年末の第九で合唱指揮者として共演して、技術の高さは勿論のこと、音楽に向かうひたむきな姿勢に頭が下がるし、何より雰囲気が良いのに好感を持っていた。
 今回の「タンホイザー」においても、いやあ、各所でうまさが際立っているぞ!第2幕のある個所でアクセルがとても速いテンポを取る。ここの弦楽器の3連符は、通常このテンポでは絶対弾けない!というところなのに、みんな健気なほど頑張って弾き切って「ドヤ顔」している。そのプロ根性が「凄い!」と思った。このオケを聴きに来るだけでも、上野まで足を運ぶ価値あるよ!

サイモン・オニールの美声
 サイモン・オニールは、稽古中、喉を守ってなかなかフルボイスでは歌わなかったけれど、黒川のオケ合わせで、ほぼ全曲フルボイスで歌い切った。圧倒的な歌唱だ!日本人歌手達については、僕は批評家ではなくむしろ公演の当事者なので、誰がどうとうっかり言うことは控えるが、みんなプロとして頑張っているよ!

みなさん、是非公演に足を運んで下さい!

その忙しい日々の合間に
 二期会「タンホイザー」のスケジュールの中に、一日だけ新国立劇場での「トリスタンとイゾルデ」オケ合わせが入っている。実はすでに新国立劇場内では「トリスタンとイゾルデ」の立ち稽古が進んでいる。でも合唱は第1幕だけの男声合唱で、しかも舞台裏なので衣装もないし、立ち稽古には参加しなくとも良い。たまたまオケ合わせが「タンホイザー」公演のない日だったので有り難かった。音楽稽古はすでに「タンホイザー」の稽古が佳境に入る前に行って、暗譜稽古まで丁寧にやっておいたのだ。

「タンホイザー」は週末で終わるが、忙しい日々は来週も続く。

3月
4日月曜日 新人のためのオーディション 新国立劇場
5日火曜日 現行メンバーの試聴会 新国立劇場
6日水曜日 現行メンバーの試聴会 新国立劇場
7日木曜日
14:00-17:00
「トリスタンとイゾルデ」オケ付き舞台稽古 新国立劇場
8日金曜日 「マエストロ、私をスキーに連れてって」
プレキャンプ
9日土曜日 「マエストロ、私をスキーに連れてって」
1日目
10日日曜日 「マエストロ、私をスキーに連れてって」
2日目
11日月曜日 「トリスタンとイゾルデ」ゲネプロ 新国立劇場
12日火曜日off
13日水曜日off
14日木曜日
16:00-
「トリスタンとイゾルデ」公演初日 新国立劇場

 まあ、合間に「マエストロ、私をスキーに連れてって」キャンプなどが入るので、仕事ばかりというわけでもないのだけれど、
「トリスタンとイゾルデ」のゲネプロが終わると、中日を2日ずつ取って、初日が14日でその後、17日、20日、23日、26日、29日と6回公演となる。「タンホイザー」の感覚からいくと、逆にダラダラやってるなあ、という風にも感じられる。

多忙な日々の間を縫って
 「タンホイザー」の稽古が進む午前中に、遊んでいたりリラックスしていたわけでは当然なかった。自宅でZoom指揮レッスンをしたり、イタリア語のレッスンに行ったりしていたし、加えて、今すぐということではないけれど、将来を見据えてやっておかなければならないことが山ほどあるのだ。

アッシジ演奏会用オーケストレーション
 そのひとつに、アッシジの聖フランシスコ聖堂で行われる演奏会のための“アッシジ・バージョンのオーケストレーション”というのがある。これがなかなか進まなくて焦っていた。

 オリジナル編成では、ピアノを含む弦楽器に加えて、「アッシジの聖フランシスコの平和の祈り」を含む「3つのイタリア語の祈り」では、ソロ楽器としてアコーデオンを使い、Missa pro Paceではアルト・サックスを使っていた。
 でも、こうした特殊楽器の場合、現地での優れた奏者調達が難しいのと、聖フランシスコ聖堂では雰囲気が合わないため、ソロ楽器をクラリネットに変えた。ところが編曲を始めてみたら、演奏会での全ての演目をクラリネット・ソロだけだと単調になってしまうんだよね。
 それで、演奏会全体のギャラや交通費などの予算を組んでいる旅行社と交渉の上、クラリネットの他にフルートも加えてもらった。これで表現力は一気に増える。ある曲はフルートのみを使い、ある曲はクラリネットのみ。そしてメインプログラムであるMissa pro Paceでは両方使うのだ。
 全体の響きは、オリジナルよりもかなり清冽なものとなって、アッシジの聖フランシスコ聖堂にとてもマッチすると思う。

 みなさん!このオーケストレーションで、アッシジ祝祭合唱団と一緒になったアッシジ・サウンドを是非聴かせたいなあ。って、ゆーか、今からでも遅くないので、ひとりでも多く、このツアーに参加して下さい。信仰者でなくても、素晴らしい聖地の雰囲気の中で、人生の塵を落とし、明日への活力を得ることを僕は約束します。
 また、歌わなくてもツアーに同行する人も大歓迎です。旅行社が、そろそろ準備完了となる頃です。詳しくは、このホームページ内のアッシジのページにいろいろ案内が出ます。

名古屋では「平和のミサ曲」を二管編成で
 この他に、9月のモーツァルト200合唱団の演奏会で演奏される、同じMissa pro Paceの2管編成オーケストラ・バージョン(2020年に95パーセントくらい完成させたが、コロナで中止になってそのまま)の見直しもしないといけないし、6月に上演されるミュージカル「ナディーヌ」の改訂版台本を書き直したり・・・・いろいろがたまっていて、もう頭がおかしくなりそう!

ああ、スキー・・・
 その中でも、一番のストレスは、休日がないのでスキーに行けないことだった。間に一日でもあれば、心身共に解放されて、さあ、また頑張るぞ!という気持ちになるのだけれど・・・・。

 「タンホイザー」が終わり、新国立劇場の「トリスタンとイゾルデ」が公演に入っていく3月中旬になると、休日が結構あるのでその間に行くぞう・・・でもさあ・・・こんな暖冬でお山に雪がちゃんと残っているかなあ?

2024.2.26



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