特に充実した週末

三澤洋史 

写真 三澤洋史のプロフィール写真

僕のウィークデイの過ごし方
 先週は、6月3日月曜日に、長谷川幹人さんと娘の志保との合わせを目黒のエレクトーン・シティで行ったが、その後、火曜日から金曜日までは、自宅でズーム・レッスンをしたり、イタリア語のレッスンに行ったりした他は、外出する予定のない一週間であった。

 それで、午前中は、モーツァルト200合唱団演奏会のMissa pro Paceフルオケ編成用のオーケストレーションを中心に仕事をしていた。スコアは仕上がっているのだが、見直しをしてみるとパートが多い分、あっちこっちにちょっとした間違いを発見したり、強弱記号が抜けていたりしているので、今週あと1回ザーッと見直しをしてから、パート譜のレイアウトに入る予定。

 お昼を食べてからは、自転車で立川の柴崎体育館に泳ぎに行き、その後、カトリック立川教会に行って瞑想し、それからは、立川駅北口の髙島屋にあるジュンク堂で本を見たり買ったり、あるいはカフェに入って別の仕事をしたり、イタリア語のレッスンのためにイタリア語の小説を日本語に訳したりしていた。

 水泳のお陰で、少しスリムになって陽に焼けて健康そのものだし、4日連続で行くと、少しうまくなった気がする。ただ水泳って、ストロークにしてもキックにしても、そう画期的にうまくなるのは期待できない。とはいえ、そのマイナー・チェンジの感覚は、泳いでいる方にははっきり感じられて、チマチマとした上達が嬉しい。
 俗に良く言われるのは、手の掻き始めと反対の手の入水のタイミングを揃えるということだが、3拍子のキックをどんどん行って、そのキック開始と手の掻き始めを揃えていくことを最優先にすると、推進力が最大になり、その際反対側の手の入水は、わずかに遅れても差し支えないということに気が付いた。

 水泳後の教会での瞑想は、疲れているので時々居眠りが入ってしまうのが笑える。瞑想と居眠りの違いは明確で、瞑想の場合は体が眠っていても意識だけははっきりしていること。でも、たとえコックリと頭が落ちても、構わず続ける。別に「そんなテキトーでいいのか?」と誰にとがめられるわけでもない。最近の傾向としては、至福感があること。守られているという安堵感があること。満たされて教会を出ることが多い。

アッシジ祝祭合唱団国内演奏会
 カトリック田園調布教会はいつ行っても素敵だと思う。聖堂に辿り着くまでは登り坂の連続で、足や腰の悪い人や高齢者にはきついだろうと思うが、登り切って聖堂の入り口のバルコニーからあたりの景色を眺めると最高だし、反対に多摩川駅のホームや遠くからは、権威を持ってそびえ立っている姿が壮観だ。


東急東横線・多摩川駅から架線越しに大聖堂を仰ぐ

 ここで、6月8日土曜日午後2時からアッシジ祝祭合唱団の国内演奏会が開かれた。前売り券はなんと完売していて、当日券は一応出したのだが、立ち見は(消防法とかの関係で)禁止ということなので、満員にはなって欲しい一方で、多すぎたらどうしようか・・・せっかく来たお客さんを帰したりしたくないな・・・と、気を揉んだ。結果的には、ほぼ満員だが多すぎず・・・という理想的な状態で演奏会を開催することができた。神に感謝!

 僕の曲は、いろんな意味で、通常の宗教曲からハズれている。まずは、僕の好きなジャズやポップスやラテン音楽などの要素が入っていて、音取りは難しいし、リズムも複雑。それに、宗教曲なのにこんな曲調でいいの?と、熱心な信者さんによっては「ふざけてる!」と怒る日がいるかも知れない楽想もバンバン入っている。
 なので、みんな演奏会を聴いた後で、どう思いながら帰るのだろうかと思っていたが、むしろかなり喜んでくれたようで、特にMissa pro Pace(平和のためのミサ曲)については、「楽しかった!」
と言ってくれた人が多かったのは嬉しかった。


アッシジ祝祭合唱団
カトリック田園調布教会 大聖堂

 残念なのは、この国内演奏会には出られたが、病気などの理由で、本来の目的である「アッシジの聖フランシスコ聖堂での演奏会」に行かれないという人が何人か出たこと。まあ、逆に言うと、その意味でも、この国内演奏会は重要であったといえる。
 加えて、名古屋からの参加者については、この日が初めて東京の団員との顔合わせで、名古屋でMissa pro Pace二管編成オーケストラ・バージョンの練習をしているモーツァルト200合唱団の団員が多いのだが、それ以外の曲は、ほぼぶっつけ本番といってもいい。

 最初は、国内演奏会に出演するのは「アッシジに行くための最低条件」で、出るからには、東京での通常練習に最低1回は出ないといけないんじゃない、という意見もあった。でも、そう言っていると、そもそもアッシジ行きも辞めようかとなってしまう可能性もあるので、僕の方から、とにかく目標はアッシジということにして、国内演奏会に関しては、あんまり邪魔されるのも困るけれど、最低限は口パクでも許して、とにかくこの演奏会で東京のメンバーと作り上げた経験を生かして本番に備えよう、と彼らに告げた。

 まあ、そんなわけだから、ゲネプロでは、サウンドもタイミングも結構バタバタしていたが、本番では彼らも口パクどころか声もきちんと出していたので安心した。

 「僕の作曲した音楽だけで、自分の守護聖人である聖フランシスコの故郷アッシジに彼らを連れて行って聖フランシスコ聖堂で演奏会を行う」という、まるで夢みたいな計画が、実現に向けてひとつのマイルストーンを越えたことは、本当に嬉しい限りである。

ただただ感謝である。


終演後整列


ポストリュード
(写真:アッシジ祝祭合唱団 辻直浩氏提供)


新町歌劇団「ナディーヌ」練習
 アッシジに行けない人たちは、今後の練習に出る必要もなくなるため、国内演奏会の後、みんなで彼らに「お疲れ様」を言う簡単な会合を開いた。その後、僕は家族とも別れ、多摩川駅から乗って副都心線で池袋に出て、そこから群馬に向かおうとした。
「先生、初谷(はつがい)さんが練習を付けていますが、遅くなってもいいですから、夜の練習にいらしてください!待ってます!」
と新町歌劇団のSさんに言われてしまったので、遅れで入ろうと思っていたのだ。

 でも、このままでは夕飯を食べ損ねてしまうため、池袋駅前のイタリアンに入って、サラダとスパゲティー・ボロネーズを注文しようとしてふと見ると、別のメニューにハッピー・タイムと書いてあって、ビールやワインが半額以下になっている。う~~ん・・・新町歌劇団の練習が・・・と思ったけれど、気が付いたら料理と一緒にビールのジョッキを頼んでいた。それを先に来たサラダと一緒に飲んでいたが、喉も渇いていたのであっという間に飲み干して、またまた気が付いたら、スパゲティーと一緒に赤のグラスワインも飲んでいた。国内演奏会の“ひとり打ち上げ”的な雰囲気で、僕はボーッと演奏会の余韻に浸りながらリラックスしたひとときを過ごした。

 それから群馬に向かった。池袋から赤羽まで行って、それから特急あかぎに乗り換えて指定席でほとんど寝ながら新町に着いた。新町には20時17分着。公民館に着いたらもう午後8時半。あと30分しかない。初谷君が一生懸命練習を付けていて、僕はのんびり見ていたが、ところどころ我慢できなくなって、
「ちょっと、ちょっと、そこはさあ・・・」
と注意してしまう。で、あっという間に9時になってしまった。

 次の日の6月9日日曜日は、本番会場の新町文化ホールに、主要キャスト達も東京から来て、舞台稽古を行った。初谷君だけは、残念なことに今日は本番があって欠席なのだが、主役の二人(込山由貴子―ナディーヌと山本萌―ピエール)のフレッシュな演技にとても進歩が見られたし、ニングルマーチ(秋本健)とグノーム役の子ども達の弾けた演技にも磨きが掛かった。オリー(大森いちえい)もいつものように良い味をだしていた。

 今回、いろいろ考えて、舞台後方の壁にプロジェクターでパリの様々な場所の画像を映し出そうと思っている。文化ホールの職員達が、今回はとっても協力的で、プロジェクターを舞台上に釣って映し出すと、前で演技をしていても影ができないので、しかも舞台上に照明がついても、あまり薄くならないように工夫してくれたのだ。
 それで、数日前から僕はパリの写真を集めて整理し、場面毎に並べてスタッフに渡した。
また、サイレンや教会の鐘の音といった、シーンには欠かせない効果音も持って行ったら、舞台上で鳴らしてくれた。

 そんな感じで、この週末は、自分の作品に集中した。自分の作品というのはいいね。どんな名曲でも、ベートーヴェンでもバッハでもワーグナーでも、必ず、
「ここ何を考えてこうしているのかな?」
と違和感を感じる個所がある。当然だ。作った本人が自分じゃないんだから。でもね、自作の良いところは、それが全くないんだ。聴衆がどう思うかは知りませんが、少なくとも自分自身は、すべてに納得が出来るから、モチベーションがそもそも違うのだ。だから、この週末はその意味でも、とってもハッピーだった。

日本ワーグナー協会の理事・評議員会
 さて、「ナディーヌ」の練習が終わると、僕はピアニストの小林直子さんの車で高崎まで送ってもらい、新幹線と在来線を乗り継いで、昨日ハッピー・タイムを味わった池袋にまたまた来た。
 今日は17時から日本ワーグナー協会の理事・評議員会があった。会場は、池袋駅から歩いて5分ほどの自由学園 明日館だ。僕が評議員に選ばれて初めての会なので、新町歌劇団の舞台稽古があっても出席しないわけにはいかないのだ。

 行ってみると、三宅幸夫氏の奥様である三宅泰子さんをはじめ、東条碩夫さん、舩木篤也さんなどワーグナー関係の錚錚たるメンバーがいらっしゃる、その中にひときわ目立って美しい壇ふみさんがいた。書類を見ると、彼女も僕と同じように今期から新しく評議員になられたという。テレビで観るより背が大きいんだね。

 会議は何をするのかと興味津々であったが、決算報告書とか事業計画とかというものが前半で、後半は、雑談ではないがいろんな話が飛び交って面白かった。その中で、関西例会の報告があり、これまでの例会参加者の中で、僕の担当した「トリスタンとイゾルデ」に関する講演会の参加者数が抜きんでてトップで、しかも話の内容がとても面白く有意義だったということを聞いた。ちょっと体がこそばゆい気がしたが、正直嬉しかった。

 会議の後は、みんな飲むのを楽しみにしているようで、打ち上げに流れて行って、僕も行きたかったのだが、やはりこの二日間の疲れもたまっているので、失礼して帰って来た。

いやあ、なんと充実した週末だったことだろう!

2024. 6.10



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