マエストロ・キャンプ最終案内

三澤洋史 

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キャンプの動機~音楽が変わった
 2月8日、9日にエイブル白馬五竜スキー場で行われる「マエストロ、私をスキーに連れてって」2025キャンプまで、あと二週間を切った。今年は僕の方にスケジュールの都合があって、1回しかキャンプが出来ないので、できたらもう少し参加者を募りたいと思っている。

 いわゆる「マエストロ・キャンプ」と呼ばれているこのキャンプは、音楽家の僕が、ある時突然、メチャメチャスキーにハマったことに由来する。自分でも分からないが、自己の内部から何かが突き上げるようにスキーへの情熱があとからあとから湧いてきて止まらず、自分で、
「何だ、これは?」
と驚く日々が続いた。

 2009年から2010年の冬は、たったひとりで越後中里や石打丸山スキー場に通っていて、その帰りに、親父を亡くしてひとりで住んでいる群馬のお袋の様子を見に行くという日々を過ごしていた。親友のプロスキーヤーの角皆優人(つのかい まさひと)君が、
「なんで白馬に来ないの?」
と苦情を言っていたが、まず僕は、この不思議な情熱の意味をひとりで雪山に問うていたのだ。

 次の年、僕はエイブル白馬五竜に行って角皆君のレッスンを受けた。やっぱりレッスンを受けないと駄目だね。スキーの滑走の物理的合理性を学習しながら、僕はずっと自分の情熱の意味を探り続けていたが、ある時気付いた。
「自分の音楽が変わってきている!」
スキーの上達につれて、自分の音楽への関わり方が明らかに変わってきている!これは衝撃であった。

これが、僕が角皆君と一緒に「マエストロ・キャンプ」を始めようと思った動機である。

 まず、精神的あるいは霊的観点からのアプローチなしでも、スキーの滑走と、音楽を実際に演奏するという行為との間には、密接な物理的共通点がある。
 バイオリンの「弓にかける圧」と「弓を走らせるスピード」という縦軸と横軸との関係で、音圧と音の伸びやか感が決まることは、スキー滑走においてズレとキレを操ることで「安定性」と「滑走の爽快感」との駆け引きをすることが共通している。
 素人に近いほど、スキーの滑走はいきあたりばったりであるが、達人になればなるほど、「ひとつのターンを仕上げる」という感覚というか美学に興味を持つようになる。音楽家であれば、ショート・ターンやロング・ターンを混ぜながら、そこに美的感覚を持ち込もうと思うのは自然の成り行きであろうし、コブに挑みながらひとつのゲレンデを滑り降りることは、あたかもストラヴィンスキーの「春の祭典」を演奏しているような感覚であろう。

空間の変質~波動
 というように、スキーと音楽との自然な共通点について僕はこれまで主に語ってきたのだが、今回のキャンプの講演会では、それと合わせて、別の次元で音楽とスキーとの間の内的な関係を探ってみたいと思っている。

 ダリル・アンカをチャネラーとして、様々な事を語る宇宙存在のバシャールはBASHAR第3巻(YOICE新書)p154~155で次のように述べている。

覚えておいてください。すべては波動です。
ですから音楽は、ひとつの現実から違う現実、違う次元に移っていくということを、非常に簡単にやっています。
物理的な実際の音を使った波動は、ひとつの現実を破って次の現実に入る手助けになります。
同じような新しい波動が、新たな現実をすぐに創りあげることが可能なわけです。
自分に一番響く和音が、あなたを、一番簡単に変えてくれる和音になります。

 以前にも書いたが、ここのところ相変わらず、自分が職業的音楽家であるということを離れて、個人的な趣味として、マーラー作曲「リュッケルトの詩による歌曲集」をよく聴いている。
 特にIch bin der Welt abhanden gekommen(私は世に忘れられた)とUm Mitternacht(真夜中に)が流れると、空間が変質するのを感じる。これは比喩ではない!実際に空間が変わっているのだと思うし、マーラーの音楽にそうした力があるのだ。バシャールは、それを波動という言葉で表現しているけれど、彼が言っていることを、僕はそのままリアルな体験として受け取ることができる。

 それと共通する体験を、僕は音楽以外には唯一スキーから得ることに成功した。これも何度も書いているけれど、ボーゲンで恐る恐る滑っている時には何も起きなかったけれど、ある程度上達して、絶対に転ばないという確信の元に、急斜面で自転車を超えるスピードを初めて出した時、「空間が変質する」のを感じたのだ。
 分かり易い言葉で言うと、
「今転んだら死ぬかも知れないな」
という恐怖の感覚だ。しかし、そこには恐怖だけでなく、恐怖と隣り合ったある種のエクスタシーの感覚が同居しているのに気付いたのだ。
 つまり、これもバシャール的に言うと、同じ空間にいながら波動が変わったということであろう。今では、それは絶対的なスピードのみではないことにも気付いている。例えばコブ斜面を無心で滑っている時。転んだらヤだな、と思っていたら話にならないので、弾き飛ばされて転んでもいいや、と覚悟を決めて滑っているけれど、心の中ではやはり死んだり怪我したりというのを恐れている。その時は、同じように空間が変質するのを感じているのだ。

 角皆君は、モーグルの大会などで、特に会心の滑りが出来る時など、出発してからゴールするまで「音が消える」という体験をしている。僕も音楽家としてそれは分かる。特にバッハの音楽を演奏会本番で指揮している時に起こることだが、勿論音楽は鳴っているにもかかわらず、
「絶対的静寂が支配している」
のを感じるのである。

 キャンプのレッスン自体の中でそれを感じるのは無理であろうが、スキーをする皆さん!僕が皆さんに望むのは、キャンプのレッスンを通して、「絶対安全に滑れる」技術を習得して、それから、バシャールの言う「空間の波動が変わる」体験あるいは「静寂」の体験に是非辿り着いて欲しいのです。

キャンプ前日まで申し込み可
 ということで、キャンプ前日まで申し込み可ですし、ぶっちゃけ、キャンプ当日の9時半までの受付時間に、エイブル白馬五竜とおみゲレンデのセンター、エスカルプラザに入って階段を上がり、ゲレンデ入り口近くの正面の「フリースタイル・アカデミー」の窓口で、
「来ちゃった!お金払って申し込みま~す!」
というのもアリです。
 ちなみに、僕も7日午後のプレ・キャンプから参加します。みんなに付き合うという意味ではなくで、年末もそうだったけれど、プルーク・ボーゲンでの超基礎的なレッスンでも、自分としてはとても得るところがあるのです。一流の講師というのは、そんな超カンタンに見えるレッスンでもね、いろんなことを気付かせてくれるんだよ。

Cafe MDRの募集要項をよく読んで申し込んで下さい!

では、みなさ~~ん!待ってます。

川場でコブと格闘
 さて、そんなわけで、実際、年末の白馬で、12月31日に角皆君にお願いして、僕、長女志保、次女杏奈とその夫泰輔君で受講した「シーズン初め超基礎レッスン」が役に立った良い例をお知らせしよう。


川場スキー場
(出典:SURF&SNOW

 1月21日火曜日。僕は川場スキー場の高手スカイラインにいた。ここは全長1350メートル、最大斜度29度の上級コースで、上部は整地であるが、中程から非圧雪地帯になり、丁度良いコブ斜面となっている。
 このゲレンデは、頂上からもそうだけど、コブ斜面からでも高崎方面から見る赤城山の裏側がよく見えて興味深い。上部の整地では、ピッチの速いショート・ターンを練習した。雪質が良いのでキュッキュッと良くキマる。
た。


高手スカイライン上部

 一方、下部のコブを作った人達は、あまり上手とは言えず、超ムラがあって、大きいコブがあったかと思うと次に小さいコブが来たり、一度コブが終わって間隔が空いていたり、いろいろだった。
 本当は、川場スキー場には、無名峰トライアルという、全長660メートル、最大斜度34度の超規則的な「人工モーグルバーン・ゲレンデ」があるが、そんなところで転んでばかりいても練習にならないので、今日は、最初だけ一番奥からクリスタル・コースと桜川コースをウォーミング・アップの意味で滑った後は、一日、高手スカイラインでひたすらコブと格闘していた。


高手スカイライン下部

 コブの一番溝の深いところを超スピードで行くのがカッコいいような気もするけれど、今日の僕の目標は、飛び出したりしないで、落ち着いて最後まで滑りきること。そのためには、なるべくズラすことができる場所を探して、スピードが出すぎないようコントロールすることが肝心だ。
 コブの穴の手前の斜面をゆっくりズラしながら降りて、次のコブには、場合によってはコブから一度抜けて入り直してもいいから、今度はコブの反対の斜面をズラすのもアリで、とにかくスピードコントロールに命を賭けた。

 さっきの話に戻るけれど、こうやって無心になってコブと格闘している「空間」も、高いスピード値で滑走するのとはまた違った意味で、きっと空間の波動が変わっていると思う。あとで我に返った時に、「別の空間に居た」という気がするもの。マーラーの音楽が鳴り終わったときに、日常の空間に戻るのと同じ感覚。

 さて、そうした集中力に満ちた練習の甲斐あって、午後、最後に滑るときにはほぼ完走することができたぜ!「ほぼ」というのは、平行してふたつのコブが出来ているところで、どっちに行こうか迷った時に、一度止まってしまったことだが・・・本当は、ハアハアハアと息が上がってしまったんだが・・・まあ、こんなことはわざわざ書くことないよな。「完走」と言っておこう。

高崎で地方オペラを
 昨日の午後は高崎にいた。「高崎地産地消オペラ」の「椿姫」公演を助けるためである。演出家の木澤謙さんは、地元高崎でバレエスクールを開いているバレエ振付師であるが、5月3日土曜日に高崎芸術劇場で行われる「椿姫」公演のための援助をお願いしてきたので、引き受けることにした。


高崎地産地消オペラ「椿姫」(画像クリックでPDF表示)

 高崎芸術劇場は、コロナ渦の中にオープンしたが、僕の作曲したミュージカル「おにころ」がこけら落とし的公演となった。その関係もあるが、できれば、この「椿姫」をきっかけとして、高崎にも地方オペラが根付いて欲しいと個人的に思って、プロジェクトに加わることとなった。それで、差し当たって僕に出来ることは、公募して集まった50人ほどの合唱団に稽古をつけること。
 それで昨日午後、合唱練習を行ってきたところである。合唱団は、そこそこ声が出る人達が集まっていたが、オペラ合唱の醍醐味というものをまだ知らない。自分の歌がどうドラマに関わってくるのか、歌うだけでなく、どうドラマチックな表現に結びつけていくか、これから丁寧に紐解きながら、高崎の観客も含めて、本当のオペラの楽しさ、歓びに触れさせていきたいと強く願っている今日この頃である。

2025. 1.27



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