「マエストロ、私をスキーに連れてって 2025」キャンプ無事終了

三澤洋史 

写真 三澤洋史のプロフィール写真

「マエストロ、私をスキーに連れてって 2025」キャンプ無事終了
 2月7日金曜日。8時25分立川出発のあずさ号に乗って白馬を目指した。満席だったが、今回はかなり前から予約していたので、進行方向左側窓際の席が取れて、超快適な旅であった。

 あずさ号の席は絶対進行方向左側を取るべし。八ヶ岳だけは反対側だが、勝沼の“ぶどうの丘”を左に見ながらグルッと回って行くし、アルプスの眺めや安曇野や、木崎湖及び青木湖、また白馬エリアに入ってきてからの五竜及び八方のゲレンデの眺めなど、景色の良い処はみんな左側に集中しているのだ。

 僕の車両は、周りがみんな外国人ばかりで・・・というか、あずさ号そのものが外国人でかなり占められていて、しかも白馬駅でみんな降りて駅に溢れた。白馬到着は11時42分の予定だったが、大雪のため対向車が遅れ、その影響で実際の到着は正午くらい。この電車も目的地の南小谷(みなみおたり)までは行けなくて、手前の駅からバスがピストン輸送するとアナウンスされていた。今週末は記録的大雪だという。

 駅から宿までタクシーで行こうと思っていたら、
「外国人が殺到するのでタクシーにいつまでも乗れないと気の毒だから、あたしが迎えに行きます」
と、角皆君の奥さんの美穂さんが駅まで車で迎えに出てくれた。とても助かった。
 今日から二泊するときわ亭という宿で、荷物を置き着替えて、あらかじめ送ってあった板を担いでスキーセンターのエスカルプラザに行くと、角皆君と高崎高校同級生のK君がサブウエイで待っていた。メイン・レストランのハルが超満員で、ここしか空いてないという。サブウエイは嫌いではないし、新国立劇場の休み時間でも時々オペラシティの店を利用するので、軽い昼食って感じ。角皆君が奢ってくれた。
 K君はベトナム考古学が専門の学者。今回はプレキャンプから本キャンプ1日目まで参加の予定だったが、お母さんの具合が悪くなったため、残念ながら今日のプレキャンプのみの参加だそうである。

 さて、プレ・キャンプが始まった。参加者は、K君に加えて、常連の東京バロック・スコラーズ団員のTさん、角皆君の従姉妹で新町歌劇団のUさん、それから、高崎の「椿姫」の合唱団にわざわざ東京から通っているというAさんが初参加、というメンバーであった。
 角皆君のレッスンは、明日からの本キャンプに備えての基礎的な内容ではあったが、実に内容が充実していて、僕自身も、常にここに立ち還ってしっかりマスターすれば、急斜面やコブでさえも、落ち着いて対処できるんだな、とあらためて納得させられるものであった。

 レッスンが終わって、今回の宿のときわ亭に戻ると、間もなく妻と孫娘の杏樹が到着した。

自動車が雪の小山に
 その晩から次の1日中にかけては、警報級の豪雪だということであった。夜中も雪は降り続き、朝になって見たら、庭に駐車してあった我が家の車は、どこにも見当たらず、そこには盛り上がった雪の山があるのみであった。
 急いで宿の雪かきの道具を借りて、雪を時間かけて丁寧に払っていったら、やがて雪の中からフロントガラスが現れ、屋根が現れ、しだいに我が家の車が姿を現してきた。宿の長靴を履いていても、車の周りを歩くだけで、その長靴の中にも雪が入り込んできそうで、周到に雪をのけながら足場を固めていく。
 あたりを見ても、あちこち雪の小山が見える。これみんな車かあ!うわあ!こんな風に一晩でこんなに積もってしまうんだ。信じられないなあ!

楽しく充実した本キャンプ
シーハイルと1日目

 2月8日土曜日9時50分。いよいよ本キャンプの準備運動開始。その後、キャンプ恒例の「シーハイル・コール」が行われた。これは、オーストリーのアルペンスキーでは恒例のセレモニーだ。
 ドイツ語では、スキーはSchiと書くがシーと読む。Heilは「ハイル・ヒットラー」の言葉のように、なんだか印象悪いが、辞書を引くと「平安、無事、健康、繁栄、幸福、救済」という意味。スキーのキャンプにおいては、キャンプの全行程が、怪我もなく無事でしかも成果が上がるように、との祈りを込めるおまじないである。
 
 具体的に言うと、参加者全員で大きな輪を作り、ひとりひとりが両腕でストックを斜め外側に高く掲げ、互いのストックが重なるようにする。その際、右側のストックは右隣の人より外側に置く。そして、輪の右隣の人のストックを右腕で叩く。逆に左側の腕は、左側の人から叩かれるままにする。
 そして、
「Schi Heil, Schi Heil, Schi Heil Heil!(シーハイル、シーハイル、シーハイルハイル!)」
を2セット、ないしは3セット唱えるのだ。これをキャンプ全行程終了の際には、今度は感謝を込めてみんなで唱える。


Schi Heil Heil!(写真提供:平沢克宗様)

 本キャンプ参加者は、昨日プレキャンプに参加したTさんUさんAさんに加えて、やはり新町歌劇団員でキャンプ常連のYさん、それからやはり常連のSさんが、名古屋からふたりのお孫さんを連れて参加した。Sさんの奥さんは同行したがキャンプは見学。
 ふたりのお孫さんの内、下の小学3年生のRちゃんは、僕の孫の杏樹と大の仲良し。このキャンプで知り合っただけなのだが、今回も杏樹と一緒に滑るのを楽しみにしていた。でも、杏樹は、実は今日だけ別の理由があって一緒には滑れない。その理由は後で話す。
 もうひとりの孫のS君は、ここのところ中学受験準備などで休んでいた。現在東海中学2年生ということで再び参加。その間に背が伸びてびっくり!

 さらに、僕の先週の「今日この頃」最終案内で、
「当日9時半までの窓口申し込みで『来ちゃった!』でもいいから、飛び入り大歓迎ですよ!」
と書いた記事を見て、まさに飛び入りで名古屋から参加してくれた(愛知祝祭管弦楽団チェロ奏者)Iさんと、その長男の、やはり中学2年生のS君。すでにキャンプは経験済みだけどね。ということで、合計すると、大人6人、未成年者3人。

 講師には角皆君と、もうひとりは、平沢克宗(ひらさわ かつのり)氏が担当した。平沢さんは、スキー界の大御所、平沢文雄さんの息子さんで、お父さんのあとを継いで「シニアに楽なスキー」を教えているため、昨年お呼びした時は、「楽で疲れない」スキーを指導してもらった。
 ところが、当マエストロ・キャンプでは、シニアの人達が多いものの、そのシニア達は、なんだか妙に元気が良くてしかも生意気で、
「疲れないスキーなんて物足りない!むしろ疲れるスキーをガッツリとやりたい」
と言い出したので、今年はせっかく平沢さんを呼んでおきながら「楽なスキー」はやらなかったのだ。
 ただね、克宗さん本人は、実は、オーストリーで超有名なベルント・グレーバーからアルペンスキーの神髄を徹底的に学ばれており、むしろそちらの方が本来の姿ともいえるので、もう講師のレベルだけは超一流のキャンプなのです!

杏樹の講習内検定
 孫娘の杏樹がキャンプ一日目に加わらなかったのには理由があった。彼女は、実は、全日本スキー連盟(SAJ)公認の白馬五竜スキースクールで、1日コースの個人レッスンを受け、それがそのまま講習内検定試験となったのである。
 僕自身は、そうした検定とかバッジとかいう「人から与えられた権威」には全く興味がない人間であるが、杏樹のようなヤンチャ娘には、何か「これなら誰にも負けない」というものをひとつ持たしてやりたいという気がしていた。そこで、目標として6年生までにSAJジュニア1級を取らせてあげたいと思っていた。
 ただ、1級は、どんなに上手でも、いきなり取得することは不可能で、まずSAJ検定試験における“2級取得済み”という前提がないと1級受験資格がない。
 そこで、2月8日土曜日、以前、個人レッスンを受けて、とても良い指導をしてくれた吉井先生を指名して、個人指導を行っていただき、そのまま講習内検定試験において見事ジュニア2級を取得することができた。


杏樹ジュニア2級合格証

 これで早ければ、今シーズン内にSAJジュニア1級を取得できれば、本人の励みにもなると希望している。

講演会、今回は空間論
 さて、このマエストロ・キャンプの、もうひとつのメイン・イベントである講演会であるが、今回は午後のキャンプが終わった後、ゲレンデ内のグリーングラスというレストランの一画で行われた。


グリーングラス(写真提供:平沢克宗様)

 この内容を説明すると長くなってしまい、とてもここで書き切ることはできないので、なんとなく、スライドをまとめた画像をご覧ください。これは人によって感じ方が違うのだけれど、要するにひとことで言うと、
「音楽が鳴り出すと、僕には空間が変容するように感じられるのだ。音楽が創り出す新しい現実は、日常生活の現実とは違って・・・・というより、自分の内面にとっては、日常生活よりも、もっとリアルな現実となる」
ということであるし、それを僕は、音楽の他にスキーにおいても感じるのだ。
「スキーにおいて、自分の出しているスピードが、自分の意識で許容できるスピードを超えた時、
『今転んだら死ぬかも知れないな』
という恐怖を感じると共に、同時になんともいえないエクスタシーを感じる。これを、
『霊的トランス状態』
と言うこともできるけれど、別な言い方をすると、ここでも空間が変容するという風に言うこともできる。


講演スライド(画像クリックでPDF表示)

 そうしたことを説明する間に、僕は自作のMissa pro Pace「平和のためのミサ曲」の作曲において、自分に何が起きで、どんな精神状態であったかの説明を行った。また、話は変わって、スキーでコブと格闘している時には、ストラヴィンスキーの「春の祭典」のような音楽的空間の中に自分がいるような感覚があり、言ってみれば、自分は、
『スキーをしているように音楽を奏で、音楽を奏でているようにスキーをしている』
と言うこともできる。
最後に、Missa pro Paceの中のFesta di Credo「信仰告白祭り」のサンバのリズムに乗って、サンバ・ステップをみんなで踊りながら、ショートターンにおける徹底した「外向傾」の練習をしてもらった。

 さて、1日目のキャンプが終了した後で、僕はとおみゲレンデのスカイフォー・リフトの終了時間16時50分ギリギリまで、ひとりで滑っていた。スカイフォー頂上のすぐ下に、丁寧にポールが立っていて、それに沿ってコブが出来ていた。僕は毎回そこに入って滑ったが、先ほどの徹底外向傾サンバステップが大いに役に立って、コブを滑るのに大いに役立った。
 
 みなさん、これだけははっきり言っておきますが、徹底外向傾を行って、上半身が常にフォールラインを向いていさえすれば、それだけでコブは安定して滑れます。そのためには、みなさんも、どんなに足が横を向いても、上半身だけは常に前方を向いているサンバステップを行って下さい。ただし、
「うわあ!お腹がギュッとねじれる~~~!」
と思うくらいよじらないと駄目です!分かったあ~?

 リフトがクローズしたので、スキー板を担いで宿に戻ってきたら、その途中の下り坂の道で、杏樹が「かまくら」を作っていて、Rちゃんが、その側で雪で遊んでいた。Rちゃんは、とても人見知りする性格だというが、どういうわけか杏樹とは本当に気が合うみたいだ。
 僕たちの宿のすぐ近くにRちゃんは宿を取っていたので、夕飯後、杏樹はRちゃんの宿に遊びに行った。おじいちゃんばあちゃんも加わって楽しかったみたいで、ゴキゲンで帰って来た。

 キャンプ2日目も充実したレッスンが続き、午後にはビデオ撮りをした、みなさんもご覧になってくださいね。



 ということで、今年のたった1回のキャンプも終わった。来年は、なんとか2回やりたい。また、僕自身もこのキャンプで学んだいろんなことを生かして、オフ日を活用してもっともっと上手になりたい。

差し当たっては、またまた湯沢方面だな!

2025. 2.10



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