六本木男声合唱団のバルセロナ演奏旅行
もしかしたら、今って、僕の人生の中で一番忙しい時じゃないの?それなのに、今朝から書いていた原稿を、誤って消してしまった!参考にということで、以前のモナコ演奏旅行の時の原稿を探して、その原稿を終了したつもりだったが、むしろ書いている最中の原稿を保存せずに白紙にしてしまった!
畜生め!最初から書き直さないといけない!何を書いていたかというと、六本木男声合唱団の話題だ。僕は11月25日火曜日から六本木男声合唱団のバルセロナ演奏旅行に行く。その日は、午後に二期会のベルリオーズ作曲「ファウストの劫罰」の合唱練習があり、夜は東響コーラスの下野竜也さんのマエストロ稽古。それが終わると、すぐに大久保練習所を飛び出し、羽田空港に向かう。
羽田のフライトは深夜0時05分。だから正確に言うと、すでに11月26日水曜日に突入している。ドバイ経由のエミレーツ航空。現地のオーケストラ練習や合唱団との合わせなどを経て、演奏会は11月29日。
帰りの便は会社が違ってエティハド航空。成田空港にはアブダビ経由で12月2日午前11時40分に着く。その晩には「ファウストの劫罰」のマエストロ稽古がある。
結構綱渡りのスケジュールだが、こうしないと、そもそもバルセロナ公演の指揮を受けることができなかったので、六本木男声合唱団事務局には、最初に予定していたスケジュールを動かしてもらったり、異なった航空会社の経費もかかったし、いろいろ申し訳ないと思っている。
六本木男声合唱団は、20年ほど前にはかなり足繁く通っていた。2007年にはモナコのモンテカルロ歌劇場での演奏旅行で指揮した。その時は妻も連れて行ったし、二人の娘はパリに留学していて、彼女たちがパリから駆けつけて来て、ふたつのコンサートの合間の休日には一緒にニースに遊びに行って楽しかった。
しかし、その後、新国立劇場での仕事が忙しくなって、六本木男声合唱団の練習には全く行くことが出来なくなった。今回あらためて行ってみたら、その20年あまりの間に、親しくしていた団員の何人かはすでに亡くなり、メンバーも随分変わった。
この合唱団は三枝成彰さんの事務所が管理しているので、演奏する曲は、おのずと三枝さん作曲か編曲の音楽が主になる。今回は、14曲から成る「最後の手紙」という組曲を演奏する。第二次世界大戦中に、様々な国で死を目前にした兵士達が、家族や愛する者に送る「最後の手紙」に作曲したものである。これから戦いに出る前の手紙が主だが、敵に捕まって銃殺される前の手紙とかもある。
たとえば日本人の妻に宛てた手紙の一部。
出征で東京をたつ時、薄化粧で床にすわって、
あの時お前は涙をこらえて笑ってくれた。
むしろさわやかに。
おまえは笑うと美しい。歯が特別きれいだ。
肌はきめこまかくしまっている。
豊かな乳房をもっている。
広い広い母さんの胸だ。
僕はおまえの胸の中で、子どものように眠りたいと何度も考えたことがある。
(中略)
そんなことを考えていると、なつかしくてたまらなくなる。
おまえは、たっしゃで暮らしてくれ。
まだ旅ははじまっていない。おまえのも、わたしのも。
まだふたりとも大きなできごとを前に控えている。
おまえは人生を始めるというおまえのできごとを。
(中略)
わたしは、おまえの心臓の鼓動が、
行くべき定められた軌道を刻むかぎり、
いつまでも、おまえを愛する。
どこにいても、おまえを守る。
(中略)
あとうかぎりの愛をこめて、この世で最上のものである母さんと、
おまえに、あいさつを送る。
おまえがまだ知らないおまえの父
僕は君をしあわせにしてあげられなかったのを心から残念に思っている。
僕は君の子どもを持ちたかった。
君がいつもそれを望んでいたように。
だから、僕は君にお願いする。
戦争が終わったら、再婚して子供を産んでください。
今日は太陽が輝いている。その光の中で
僕の最愛の妻と僕の人生にさようなら。
君をかたく抱きしめる。
二期会合唱団とのふたつのコンサート
以前だったら、新国立劇場のスケジュールが1年以上前からドーッと決まっていたので、それと重なったスケジュールでの依頼は、そもそも受けなかったので気楽だったが、自分でスケジュールを組まないといけないと思うと、重なったスケジュールでの依頼に対しては、双方に練習日の変更のお願いをしたり、自分が急げば両方出来るか・・・なんて思ってそのまま受けて、別の練習場所への移動が大変だったり、なかなか70歳を過ぎたおじいさんにはハードですなあ・・・でもね、じゃあご隠居か?というと、いやいや音楽家としたらむしろ「今が旬!」って感じで、いろんなところで、
「昔はなんにも分かってなかったなあ!」
と思う事ばかりだ。練習に入ったら、疲れるどころか体の内側からどんどんパワーが溢れてきて、何時間やっても平気!
今は、二期会合唱団とともにふたつの演目の合唱指揮者をしている。ひとつは、もう今週末になるけれど、11月14日及び15日にNHKホールで行われる、シャルル・デュトワ指揮、NHK交響楽団によるラベル作曲「ダフニスとクロエ」。もうひとつは、12月13日及び14日、東京芸術劇場コンサートホールでの、マキシム・パスカル指揮、読売日本交響楽団によるベルリオーズ作曲「ファウストの劫罰」演奏会形式だ。
「ファウストの劫罰」のフランス語は、なかなか難しいが、先日の第1回目の練習の時に、出席するはずだった言語指導の方が、どうしても用事があって最後の一時間しか来れないというので、最初にいてくれないと役に立たないから、お断りした。
それで、発音そのものに関しては、昔、フランス語指導者の村田健児さんから習った基本的発音の指導を僕がして、さいわい、今回のピアノ伴奏者が、パリに7年住んでいた長女の志保だったので、彼女がリエゾンするかしないかの判断をして進めていったら、普通に練習が成り立ったので、もう三澤ファミリーだけで今後の練習もすることにした。
NHKの準備、今は「パルシファル」に特化
忙しいのには、もうひとつ理由がある。毎年担当しているNHK・FMのバイロイト音楽祭の解説が11月20日木曜日と23日日曜日に迫っていて、担当する「ジークフリート」「神々の黄昏」「パルシファル」はすでに聴き終わって、「パルシファル」については原稿を書き始めているのであるが、なにせ他のスケジュールもあるので、ゆっくり考えたり、落ち着いて書く時間が圧倒的に足りない。
ドイツ国内、特にバイロイトでも普通に「パルジファル」と濁るのだが、何故かNHKに行くと「パルシファル」と濁らないで発音させられる。何でなんだろうな?「シークフリート」とか「イソルデ」とか言わないのに・・・。
まあ、それはどっちでもいい。「パルシファル」に関して言うと、キャスト達が皆、粒が揃っていて優秀だ。特に、一昨年僕が担当した「ジークフリート」と「神々の黄昏」でジークフリート役を歌っていたアンドレアス・シャーガーであるが、その時は、やんちゃで元気いっぱいな一方、やや音符の処理が甘かったけれど、今回、パルシファル役を歌っているのを聴いてかなり見直した。なんと、実に丁寧に主人公パルシファルを歌っている。何より、第3幕などの弱音の表現が素晴らしい。
また、苦悩の中のアンフォルタスを演じるミヒャエル・フォレの表現力、及び、重厚なバスのゲオルク・ツェッペンフェルトの演じるグルネマンツ。と思えば、メタリックな声でアクの強いクリングゾルのジョーダン・ シャナハン。一方、パルシファルを誘惑するクンドリ役のエカテリーナ・グバノヴァは、誘惑者としての表現もさることながら、そもそも美声で、声を聴いているだけでも心地よい。
解説をするにあたって、誰もかれも褒めっぱなしだとアホに思われるかも知れないけれど、実際にみんないいんだから仕方ないよね。強いて(悪口ではないけれど)言えば、最近のバイロイトって、あまりキャストなどで冒険をしないんだ。テノールだって、フォークトとシャーガーで回していたりとか、同じ人が複数の役で出ていたりして、確実な人だけで固めているから、ミスキャストになりにくいんだね。まあ、「この役、残念!」という人がいないのは嬉しいことではあります。
指揮者のパブロ・エラス・カサドに関しては、個人的に言うと、ところどころテンポや移行部分に違和感があったりするが、なにせ、それ以前に、バイロイト祝祭管弦楽団がうまいので、全て許せちゃう!以前より、またうまくなった気がするので、まさにワーグナーを演奏させたら世界一のオーケストラだね。
また、昨年までのエバハルト・フリードリヒに代わって、今年から合唱指揮者となったトーマス=アイトラー・デ・リント率いる祝祭合唱団であるが、(はっきりとした人数は分からないけれど)やはり昨年までと違って人数的に薄い響きがする。でも、音色は良くまとめているし、発音も良く、フリードリヒから彼に代わって、急に落ちたとかいう印象は与えてはいない。
さて、3演目とも、演奏全体は俯瞰できたので、必要に応じて細部を聴きながら、原稿を仕上げていって、無事に録音が達成できるよう頑張ろうと思っている。無理しないで、体調だけには気を付けなければ。
2025. 11.10
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