デュトワの「ダフニスとクロエ」

三澤洋史 

写真 三澤洋史のプロフィール写真

人生で一番忙しい日々
 人生で一番忙しいと思われる日々が続いている。先週末はNHK交響楽団の定期演奏会において、二期会合唱団の合唱指揮者としてラヴェル作曲「ダフニスとクロエ」を担当した。その事は、後で書く。その本番が11月14日金曜日19時からと15日土曜日14時からあったが、特に15日土曜日は、演奏会前の午前中に、東京バロック・スコラーズ(TBS)の練習があり、夜は志木第九の会に行った。

 特にTBSは、今週末(11月22日土曜日)に我々が「ミニ・クリオラ」と呼んでいる、「教会で行われるクリスマス・オラトリオ演奏会」の会場練習で、西武池袋線江古田が最寄り駅の、日本聖公会インマヌエル新生教会で僕自身の朗読も交えた通し練習を行ったので、移動に時間がかかり、13時45分の二期会合唱団のダメ出しに間に合わせるためには、途中で昼食を取る時間もなく、近くのローソンでお弁当を買ってNHKに飛び込んだ。

 そして昨日の11月16日日曜日は、一日、浜松バッハ研究会で「ヨハネ受難曲」の練習だった。今日(11月17日月曜日)は13時から「ファウストの劫罰」合唱練習で、18時からは、久々に新国立劇場に行って「こうもり」の合唱練習・・・と、果てしなく続くが、「人生で一番忙しい」と言っているのはその事ではなく、その間を縫って11月20日にNHK・FMバイロイト音楽祭の解説の録音があって、その原稿準備に追われているからだ。
 20日の録音については、当初、楽劇「ジークフリート」と「神々の黄昏」の2演目を録る予定であったが、準備時間が足りなくて、どっちも中途半端になりそうだったので、「ジークフリート」のみに変更してもらって、「神々の黄昏」については後日ということになった。

 22日土曜日は、一日3コマの仕事と移動のみで終わり、NHKの準備など、とてもできる状態ではなかったが、昨日の新幹線の往復では、楽劇「ジークフリート」の録音をメモを取りながら聴いていた。何せワーグナーの楽劇は長いので、聴いても聴いても終わらない。
 自宅から浜松駅までの間に、第1幕全部と第2幕前半まで、帰り道でファフナー退治から第3幕の長い間奏を飛ばして終幕まで。しかも場所によっては何度も聴いて確かめるので余計終わらない。
 メモは、まず思ったことを率直に書くため、他人から見たら悪口の羅列にしか見えないだろうな。でも、だからといって全て褒め言葉だけで解説の録音したら、実際にバイロイトに行って観たシビアなお客から見て、
「こいつは、なんにも分かってねえな!」
と思われるし、けなしてばかりだったら、聴いている人がラジオを聴くのを嫌になってしまうから、その兼ね合いが原稿を書くときは難しいのだ。

20日までに、頑張って原稿を書き上げて録音に臨もう!

デュトワの「ダフニスとクロエ」
 モーリス・ラヴェル作曲のバレエ音楽「ダフニスとクロエ」は間違いなくラヴェルの最高傑作だ!という想いを、NHKホールの客席で聴きながら持った。そのオーケストレーションの素晴らしさ!まあ、逆に言うと、曲の構造とかテーマの論理的展開ということは、あまり考えていないので、発想の独創性とオーケストレーションが全てと言ってしまっても過言ではない。

 それ故に、指揮者にはとにかく、テンポの揺らぎにしても、バランスにしてもセンスが求められる。

 「ダフニスとクロエ」の合唱は、歌詞がなくヴォカリーズで、オーケストラの響きの一部として扱われている。なので、テキストの問題はないのであるが、それでも合唱練習は3回しかなかったので、1回目も2回目もたっぷり稽古した。
 練習は、都営地下鉄浅草線の泉岳寺駅から歩いて数分のN響練習所で行われた。N響ではオーケストラ練習が午後3時15分まであって、楽器の片付けをして合唱用の椅子を並べるので、練習は午後5時からだった。
 曲の途中で、難しく長いア・カペラ(無伴奏合唱)の個所があるので、その意味でも3回では少ないのであるが、3回目の練習の前の日になって、いきなり指揮者のシャルル・デュトワが、
「明日のオーケストラ練習の後に、自分で合唱の練習を付けたい」
と言ってきた。
 話に聞くと、その前にやった演奏会で共演した某合唱団の出来に不満をいだいたデュトワが、
「信じられないから、俺が稽古を付ける!」
とワガママを言ってきたという。しかも、先ほど言った理由で練習開始が午後5時からなのを、
「5時まで待てないから4時にしろ!」
と強引に時間変更させられたので、二期会事務所は大慌て!合唱団員の方も、数人が4時では間に合わない!と遅刻承知で始めた。僕とすると3回目でア・カペラをきっちり仕上げようと思っていたので、この時点でマエストロに聴かせるのは、合唱指揮者としては不服だけれど仕方がない。
 案の定、ソプラノとテノールがそれぞれGソとFファの2声に分かれてぶつかったままG#とF#に平行移動するところで、やや音程が下がった。するとデュトワは、僕の方を振り返って、
「ほら見ろ、下がったじゃないか!」
と言う。
僕は、
「今日、この後、僕が練習しておきます。明日には直っています」
「ほう、約束できるか?」
「はい!」
ヤベエ、直らなかったらどうしよう!でもねえ、こう言うしかないじゃないか!
ということで、デュトワが帰った後で、アカペラだけで1時間練習した。

 次の日。本番前のゲネプロ。なんとかピッチは直っていた。ゲネプロ後のデュトワの表情は昨日とは打って変わって和やかだった。僕はホッとしたが、この後2回の本番が控えている。僕は、本番前のダメ出しで(プロの場合、ダメ出しは言葉による注意だけが通常であるが)ア・カペラの部分だけ2日とも稽古を付けてから送り出した。

 89歳のデュトワの指揮の動きは最小限なので、最初のオケ合わせでは、合唱団が一体何処で歌い始めていいか戸惑っていた。それはN響も同じだった。みんなで半信半疑。僕は休憩時間に合唱団員達に向かって、
「指揮を見すぎないように。今はズレてもいいくらいの気持ちで、指揮にオーケストラがどう反応しているかを見極めて、それに合わせて歌い始めて下さい」
というサジェスチョンを出すのだが、それでも、ところどころ合唱団は飛び出したり男声と女声でズレたり・・・・。
 ただね、オケの方で、だんだん、
「それぞれの個所では、このタイミングで入ろう」
という方針が固まってきたので、合唱団も入り易くなってきた。

 初日のお客には申し訳ないのであるが、正直言って、二日目の本番の出来は最高であった。N響も確信を持ってアインザッツを弾き始めたし、そうすると、合唱団も支えがしっかりして歌い始められるので、フォルテの音響はNHKホールでも小さいと思えるほど充実していた一方で、ピアノの美しさも際立っていた。

 昨日11月16日日曜日。浜松バッハ研究会の練習から帰宅して遅めの食事を取り、のんびりとテレビ付けたら、N響アワーでヘルベルト・ブロムシュテットが詩編交響曲を指揮していた。その後、メンデルスゾーンの交響曲第2番「賛歌」で合唱はスェーデン放送合唱団。うまい!
 ブロムシュテットは、1927年7月生まれだというから、なんと98歳だ!やはり高齢故に、指揮の動きは最小限で、N響のメンバーも同じように空気を読みながら合わせている。凄いな高齢マエストロ達の活躍!

Zoomレッスンのお詫び
 NHKの録音の準備やバルセロナ演奏旅行など、またその後のスケジュールがはっきり決まらないため、Zoomレッスンの予定が、不安定で申し訳ありません!いろいろが決まり次第不定期に出しますので、なんとなく気にしていてください。

2025. 11.17



Cafe MDR HOME


© HIROFUMI MISAWA