バルセロナ出発を明日に控えて

三澤洋史 

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バルセロナ出発を明日に控えて
 出発を明日にひかえているというのに、まだなんにも荷造りをしていない。というか、おとといの土曜日は東京バロック・スコラーズで我々がミニクリオラと呼んでいる「教会で聴くクリスマス・オラトリオ」演奏会の本番及び打ち上げだったし、昨日はNHK・FMの「バイロイト音楽祭」の「パルジファル」の収録で、その後、府中のDocomoショップでSimカードのロックの解除に行ったりして、気が付いたらもう夕方だった。

 そして、ここ数日は、バルセロナでやる三枝成彰作曲「最後の手紙」のスコアの勉強を焦って行っている。もっと早くから、きちんと勉強をしていればよかった!9月から、六本木男声合唱団の練習に通っていた時にも、A3の大きくて重いフル・スコアを持って行くのがしんどかったので、ピアノ伴奏のヴォーカル・スコアで練習をつけていたから、最近まで真面目にスコアで勉強をしていなかったんだ。

 練習には通っていたので、曲そのものは知っている。というか、そもそもこの作品は、各国から戦地に送られた兵士達が亡くなる前に書いた手紙を集めた、組曲のような作品で、終曲は決まっているけれど、どの国の兵士を何曲入れようが構わない曲なのだ。
 新国立劇場の仕事が忙しくなる前に僕がロクダンに通っていた時、すでに今より少ない曲でコンサートに乗せたりしていた。だからそもそも元から知っている曲は多い一方で、その後作られた曲は勿論初めてなのだ。三枝さんは、まだスペイン人の曲が入っていなかったので、今回のバルセロナ演奏旅行に際して、スペイン人の兵士の詩で新しく作曲しようとしていたが、忙しくて間に合わなかった。

 まあ、しかし、こうしてあらためてスコアと向かい合ってみると、三枝さんの曲は、音はそんなに難しくはないんだけど、めっちゃ複雑な変拍子の音楽が多くて、しかもそういう曲に限って8分音符イコール325とか(メトロノームにそんな数字ねーよ)、音楽性というより運動性というか反射神経が求められるんだ。
 飛行機の中でも勉強したいのはやまやまだけれど、A3のスコアを開きながら変拍子を体揺すって 口ずさんでなんかしていたら、絶対周りから苦情がくるよね。う~ん・・・バルセロナまで持って行くのも重いので、スーツケースに入れちゃおうかな・・・でも、万が一、荷物が出て来なくなったりしたら、演奏会そのものができなくなっちゃうから、やっぱり重くて大きいけど、手荷物で持って行くしかないね。

 今日は午後から夜まで、二期会の「ファウストの劫罰」のソリスト達を相手にアンサンブル稽古。明日も出発の日なのに、やはり二期会と、その後東響コーラスの練習が21時まであって、0時05分羽田発のフライトでドバイ経由でバルセロナに向かう。
 これまでスケジュールがビッシリ詰まっていたから、スペインのガイド・ブックさえ、昨日、府中のDocomoショップのSimロック解除の後、府中エキナカの本屋さんでやっと買えた始末。
 スペイン語については、以前、新国立劇場で何度かスペイン人の演出家が来るというので、語学書を買って勉強したが、やればやるほどイタリア語とこんがらがってしまって挫折してしまった。今回あらためて本を開いてみたが、う~ん・・・簡単ではないな。

 さて、教会で行う「クリスマス・オラトリオ 」は、やっぱりいいね。教会というものは、ただ建物が素敵とかそういうことではなくて、そもそもやはり建物の内部に漂うオーラのようなものが違う。また、そこに聴衆として集まってくる人たちの雰囲気が違う。
 東京バロック・スコラーズでは、今年の3月に「マタイ受難曲」をやったので、昨年暮れは抜粋の「ミニ・マタイ」を上演し、お客様が泣いてくれたりしたけれど、今年あらためてクリスマス・オラトリオ(我々はミニ・クリオラと呼んでいる)に向かい合ってみて、マタイ受難曲とは雰囲気がガラッと違って、救い主の誕生という、暖かくてほのぼのとした雰囲気が聖堂全体に漂っているのを感じて、これはこれで素晴らしいなと思った。

 前にも書いたけれど、クリスマス・オラトリオという作品は、日本で上演するのが最も難しいのだ。受難曲のように長い作品でも、全体がそのように構成されていれば、それはそれで一晩の演奏会として成り立つ。けれども、6つのカンタータを、本来なら一日ずつ上演するこの作品では、一度の全曲上演というのは、長いだけでなく、聴衆がまとまった充実感を得るか?という意味でも難しいし、仮に“本来のそれぞれの日の上演”という意味では、第6カンタータが1月6日の公現節ということになると、12月26日には、もうクリスマスツリーなんかは全て片付けてしまって、代わりに門松を飾る我が国では、とっくに「クリスマス気分など遠い彼方」という感じになってしまうのだ。

 だから、こうしてダイジェストにして教会で一度に上演というのが最も相応しいといえる。そうはいいながら、当団では、一度だけ、一日の内に昼夜と2度に分けて上演したことがある。それぞれにモテット一曲とバッハの協奏曲を前プログラムに加えながらの上演で、予算もかかってしまって難しかったが、また余裕ができたら一度やってみたい。団員も、一度も歌ってない曲が何曲もあるからね。

 さて、今日は時間もないので、ちょっと短いけれど許して下さい。バルセロナの準備をして、二期会の練習に出掛けます。来週の更新は、何かアクシデントが起きない限り、バルセロナから送れると思います。では、楽しみにしていてください!

2025. 11.24



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