三澤賞からどんどん話が脱線

三澤洋史 

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ゲーテ「ファウスト」に向き合って
シューマン作曲「ファウストからの情景」についてのYoutube映像の準備をしている。Youtubeパート1は、すでに発表されているので、興味のある方はご覧ください。



このパート1を撮影、編集してくれたのは、東横線の学芸大学に住む次女の杏奈だ。そして、パート2以降は具体的な内容に入っていくため、準備に時間が掛る・・・というのは言い訳で、凝り性の僕は、「ファウストからの情景」で取り上げられるドイツ語のテキストを、Youtube映像の字幕でも、自分なりに訳して使用するつもりなので、そこに時間がかかっている。
 さらに、一回の収録分を訳したら録画すればいいのに、楽しくて何回分も訳していて、そこにハマっている。張り切って録画及び編集をしてくれる次女の杏奈が、目下仕事が忙しいという事もひとつの理由だ。

 「ファウスト」は、小説でも詩集でもなくて、元来演劇の戯曲として書かれているので、散文の部分もあるのだが、詩人ゲーテのことだから、シラブルが揃い韻を踏んでいる個所・・・すなわち純粋に詩として書かれている部分が圧倒的に多い。
 ということは、逆に言うと、それを日本語に訳した時点で、詩としての味わいは崩壊してしまうんだ。それでも、なんとか詩らしい雰囲気を残そうとする翻訳者もいるが、そうすると、ひとつひとつの単語の厳格な意味から離れてしまう。
「このジレンマの中で、みんなどうしているんだろう?」
と思って、CDの歌詞カードの喜多尾道冬訳をはじめとして、集英社文庫の池内紀訳、岩波文庫の相良守峯訳、新潮文庫の高橋義孝訳などを参考にしてみた。すると皆さん、純粋に小説を訳すのと違って、かなり苦労しているね。


Faust

 ちょっと例を挙げてみよう。これは「ファウストからの情景」で取り上げられた冒頭の部分。いずれYoutubeに挙がることになるこの訳詩は、上に掲げた訳詩家達を参考にして最終的に僕が訳してみた。

Faust:
 Du kanntest mich, (4)  僕だと分かったの?
 o kleiner Engel, wieder, (7)  可愛い天使よ、
(この2つの文がグレートヒェンの文章と合っている。4シラブルと、7シラブル。wiederとniederの脚韻)
 gleich als ich in den Garten kam?  僕が庭に入って来た時すぐに
Gretchen:
 Saht ihr es nicht? (4)  見なかったのですか?
 Ich schlug die Augen nieder(7).  目を伏せていたのを
Faust:
 Und du verzeihst die Freiheit, die ich nahm,  僕の勝手な振る舞いを許してくれますか?
 was sich die Frechheit unterfangen(9)  厚かましい事をあえてした事を
 als du jüngst aus dem Dom gegangen?(9)  最近君が教会から出てきた時に
(ファウストの2つ目と3つ目の文章が、共に9シラブルで、-fangenと-gangenの脚韻)
Gretchen:
 Ich war bestürzt, (4)mir war das nie gescheh'n  とてもびっくりしました。それまで起こった事がなかったので
Faust:
 und du verzeihst?(4)  許してくれる?
Gretchen:
 es konnte Niemand von mir Übels sagen.  誰かに陰口をたたかれることなど一度もなかった
 Ach, dacht' ich doch, hat er in deinem Betragen  でも、考えたのです。あなたの態度の中の
 was Freches, Unanständiges geseh'n?  ずうずうしさ、ぶしつけさの中に
 es schien ihn gleich nur anzuwandeln  あなたには見えたのではないかしら
 mit dieser Dirne grad' hin zu handeln.  この娘はすぐにものになると
 Gesteh' ich's doch, ich wusste nicht was sich  でも白状します。自分で気づいていなかったけれど
 zu eurem Vorteil hier zu regen gleich begonnte;  あなたにもう心惹かれていました
Faust:
 Süss' Liebchen!  かわいらしい人!
Gretchen:
 allein gewiss, ich war recht bös' auf mich,  ですから、むしろ自分に腹を立てていたのです
 dass ich auf euch nicht böser konnte.  あなたに腹を立てることができなくて
Faust:
 Süss' Liebchen!  かわいらしい人!

 合唱の部分などとは違って、ここは自由な会話の部分なので、さすがにシラブルの数は揃っていないことが多いが、それでも詩人としてのゲーテの習性と見えて、どうしても脚韻を揃えたくなっちゃうんだね。
 それを、ドイツ人が演劇として舞台で演じ、ドイツ人観客が原語で聞いたら、どの程度リズムや語尾の一致を強調するかは役者によるだろうが、セリフの調子の良さや、韻を踏む心地良さを、少なくとも観客は感じるに違いない。

 つまり僕が繰り返し強調したいのは、通常日本人は、演劇の台本である「ファウスト」に接するのに、日本語の文庫本を買って読むわけだが、そのことによってゲーテが望んだ要素のどれだけの部分が失われるのか?あるいは逆に言うと、どれだけの内容を我々は受け取ることができるのだろうか?結構、絶望的になると思いませんか?
 それだけに、シューマンが(部分的とはいえ)、ゲーテの原語のドイツ語を元にして「ファウストからの情景」を作ってくれて、それを(部分的とはいえ)聴衆が字幕を観ながら観賞できるとしたら、「ファウスト」に対するベストな享受の仕方だと僕は断言する。

 話は変わるが、6月13日土曜日。次の項で述べる東京バロック・スコラーズの「ロ短調ミサ曲」の練習に行った。この団体では、発声練習に30分かけるし、発声の指導者は僕が厳選している。指導者によって練習の開始時の団員の声が違うので、誰でもいいわけではないのだ。
 最近、大沼徹さんを発声指導者のひとりに加えた。東響コーラスで僕の指導する前に彼が発声練習を行っていたが、団員の発声がとても良い状態で練習開始できたから、即座にお話しして、当団にもお呼びしたわけである。
 で、彼の発声練習が終わったようなので練習場内に入って行ったら、大沼さんが帰る前に団員達にお話を始めた。
「今度、私は12月にシューマンの『ファウストからの情景』という作品でファウストをやるんです。できたら是非皆さん来てください」
と言ったので、僕はびっくりして、彼の後に続けて、
「ええ、皆さん!僕も合唱指揮者として参加します。ソリストのアンサンブル稽古も担当すると思います」
と言ったら、大沼さんが体を硬直させた。

 ということで、どうか皆さん、まだ気が早いけれど、12月12日土曜日、12月13日日曜日、ともに池袋駅前の東京芸術劇場コンサートホール13時開演の「セミ・ステージ形式」上演に足を運んでくださいね。ちなみに大沼徹さんは12日の方に出ますが、13日の小森輝彦さんも良いですよ。さらにセバスティアン・ヴァイグレ指揮、読売日本交響楽団は昨年の「ファウストの劫罰」でそのレベルの高さが保障されています。

 そして、そのために、これから次々と発表される、僕のYoutube動画で、しっかり予習してくださいね。早速大沼さんは、
「見てみます!」
と言ってくれた。

三澤賞からどんどん話が脱線!
 今日の夕方には新宿に行く。東京バロック・スコラーズ(TBS)の「三澤賞」のためだ。「三澤賞」というものを決めた当初は、TBS公演のためにチケットを沢山売った上位4名を、僕の自宅に招いて、僕の手料理を食べてもらう食事会であったが、結婚して家を出ていったはずの長女が孫娘を連れて家に戻ってきたため、自宅でやるのが難しくなった。
 なので、その後は今日に至るまで、外のお店で、人数も多くして割り勘で、指揮者の僕と共にテーブルを囲んで語り合いながら食事を共にするようになった。それまでチケット売上4位の人はいつも限られていたので、かえって門戸が広がって、あきらめていた人も「三澤賞」を目指して頑張るようになって良い部分もある。

 TBSとしては、先日4月26日にモテット第1番及び3つのカンタータによる演奏会を終わったばかりで、その後はバッハ作曲「ロ短調ミサ曲」を練習し始めた。TBSの通常練習日は毎週水曜日なのだが、僕の練習日だけ、月に一、二度の土曜日の午前中になる。
 同じ土曜日の午前中には、別の場所で聖フランシスコ800合唱団の練習もやっている。こちらの合唱団の結成及び練習開始の理由については以前このページでも書いたが、9月27日の第一生命ホールでの演奏会を目指して練習中である。全て僕の作曲した演目であり、聖フランシスコの「平和の祈り」と「被造物への賛歌」が含まれる。

 その自作を卑下するわけではないが、東京バロック・スコラーズでバッハの「ロ短調ミサ曲」を練習していると、その溢れるような才能に圧倒され、穴にでも潜りたい気分になる。自分で作曲をする立場だからこそ、あるメロディーと、それに対応する他の声部との絡み合いのひとつひとつに至るまで、口を開いてしまうほどの驚嘆を覚えてしまう。
 というか、僕が卑下するまでもなく、バッハこそは、ベートーヴェンやモーツァルトも含めて、あらゆる作曲家のはるか及ばない高みにましまして、過去から現在に至るまでの音楽界全体を俯瞰している。
「うわあ!こんな事は思いつかない!」
とか、
「このメロディーを使って、こんな上手な展開、絶対にできない!」
とか、具体的な良さを指摘できるだけでも、感謝すべきなのかも知れない。
 昔、ピアノのレッスンのためにインヴェンションを練習していた時などは、
「なんて面倒くさい曲だ!」
なんて思っていたからね。現在では2声のハ長調だって、絶対に他の人には作れないって断言できるし、ひとつひとつその理由をアナリーゼしながら説明できるからね。

 ええと・・・三澤賞から随分話題が離れたが、そういうわけで、今晩三澤賞で盛り上がる東京バロック・スコラーズに、是非みなさんお入りください。先ほども述べたように新しく「ロ短調ミサ曲」に取り組み始めたばかりなので、今がチャンスです。
 演奏会の日程もまだ決めていなくて、ある程度納得した状態になったら改めて演奏会場の確保を始めます。つまり、今度こそ「ロ短調ミサ曲」の理想的演奏を目指して、自分の生涯における決定版を作り上げる自負と覚悟を持ってアプローチします。
 というわけですからオーディションがあります。今書いたように、僕が自分の音楽生命を賭けてバッハにアプローチする団体なので、初心者は難しいと思います。その一方で、
「よっしゃ、腕試しに受けてやろう!」
という生意気な方、大歓迎です!

 聖フランシスコ800合唱団は、オーディションはなく、今からでも誰でも入れますから、そちらの方もどうぞ覗くだけでもいいですから来てみてください。東京メトロ南北線「東大前」改札を出たら、そのまま改札前方のエレベーターに乗り、降りて左後ろを振り返ると、東大YMCAという建物があって、階段を上がって2階です。毎週土曜日の10時から発声練習をやってます。ただし急がないと9月27日に第一生命ホールで演奏会をやったら解散しちゃいますからね。

2026. 6.15



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