Bayreuth 2001

三澤洋史 

写真 三澤洋史のプロフィール写真

7月4日(水)
 朝から「ローエングリン」。フリードリヒが練習をつけて僕がピアノを弾く。10時から13時まで3時間みっちりやった。ピアノも集中力を持続させるのが大変だった。

 お昼をいそいでカンティーネ(従業員食堂)で食べて、家に帰ってきてベットに横になったらそのままスーッと眠ってしまった。やっぱり疲れている。この後午後3時から1時間だけだけどまた初心者稽古がある。
 でもこの初心者稽古で僕はみんなの心をしっかり掴んだなという実感を手にした。また難しいところだけを抜き出した稽古をしたが、みんなかなり音楽を把握してきたから面白くなってきたらしい。
 分からないところをもっと自分の中でクリアーにしたいという希望が彼らの中から出てきた。練習をやって欲しい人達と、それに答えてあげようとする指導者と息が合ってきて、とても良い雰囲気で練習が終わった。
 僕はある種の達成感を胸に、次の「マイスタージンガー」の第三幕「歌合戦の場面」まで一時間しかないけど、また家に帰ってきてベッドにごろりと倒れ込んだ。なんか嬉しかった。このバイロイトで3年目。自分の居場所がここにあるのをはっきり感じた幸福なひとときだった。

 「マイスタージンガー」は、フリードリヒは満足しているらしいが、僕達アシスタント達は合唱団のタイミング、音程、曲想など気になる箇所がいたるところにあって、休憩時間は3人とも同じテーブルを囲んで蜂の巣を突付いたような騒ぎだった。
 シューベルトは、
「うちのシェフはノーテンキだよ。アシスタントがこうやって、あそこが気に入らない、ここがどうだってやっているのに、一人でOK!OK!って満足しているんだからな。普通は逆なんだけどさ。」
なんてしまいには言い出す始末だ。

 僕は二度目の通しの時にオリバーの横に居ていろいろ指図した。彼はまだ知らない事がいっぱいある。初年度だもの。ということは、僕もきっと初年度はなんにも知らなかったんだろうな。もうすっかり忘れているけれど。
オリバーは素直に従っている。それにしてもこいつドイツ人のくせにおとなしい奴だなあ。



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