聖フランシスコ800合唱団発足式

三澤洋史 

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聖フランシスコ800合唱団発足式
 4月4日土曜日朝10時。地下鉄南北線東大前駅から徒歩1分の練習所。今日は、念願の聖フランシスコ800合唱団の発足式と初練習の日だ。続々と集まってくる人たちを見て僕は、
「ああ、とうとう実現に向けて一歩踏み出したなあ・・・!」
と感無量であった。

 この合唱団の由来については、2月2日の「今日この頃」に書いてあるけれど、1月30日金曜日の明け方、僕はある夢を見た。ひとりの男の人が僕の前に現れて、有無を言わせぬ雰囲気で、
「今年は聖フランシスコの没後800年の年なので、演奏会をしなさい」
とだけ言った。そして、そのまま僕は目が覚めた。まだその人が目の前にいるかのようなリアルな状態だった。

 僕は、神様の存在を信じているし、キリストが起こした数々の奇跡をはじめとして、様々な超常現象がこの世にある事は信じているが、自分本人には、幽霊を見たり、予言をしたりといった超能力はない。ただ、人生の節目において、重要なサジェスチョンを夢から得たことは何度かあるし、“そうなるべき”状況に関しては、自分の意志とは関係なく、まるで見えない力に動かされているように、事がどんどん運ぶ経験もしている。
 それでも、今回のように目の前でいきなり命令のように言われたことは初めてだった。なので、起きて気が動転して、バッハを専門に演奏している東京バロック・スコラーズのメンバーに一斉メールを送ったりと迷走したりしたが、よく考えて、やはりこのための特別な合唱団を立ち上げて集中して練習し、演奏会にまでもっていくしかないな、という結論に落ち着いた。
 というか、変な話、向こうから言ってきたんだから、うまくいかないということは絶対ない、といった変な自信さえ生まれた。さらに、よく考えたら、
「2年前にアッシジにまで合唱団を連れて行って聖フランシスコ聖堂で演奏会までしていながら、当の没後800年に何もしないなんて、なんて自分はボケていたんだろう!」
という風にさえ思った。あの人が有無を言わせぬ雰囲気で、命令口調で言うのも当然だ。すぐになんとか動かなければ!
 そこで僕は、早速この事を2月2日の「今日この頃」の記事にすると同時に、このホームページのコンシェルジュと、僕のアシスタント・コンダクターをしてくれているSさんをただちに呼んで、サポートのお願いと相談をし、具体的な事が次々と決まっていって、発足式にまで至った次第である。

 本当は、初回練習なので、当然僕自身が練習をつけるべきなのだが、実は浜松バッハ研究会が身近に迫った4月18日に「ヨハネ受難曲」演奏会を行うにあたって、そのための(通い)合宿が4月4日及び5日の予定ですでに昨年から決まっており、僕は10時24分東大前駅出発の電車に乗って、浜松に向かわないといけないため、その朝僕は、集まった皆さんを前にスピーチをするだけにした。

 参加メンバーは名簿で事前に確認していたが、あらためて、
「この中で僕と一緒にアッシジに行って演奏会をした人!」
と訊いたら、かなりの割合の方たちが手を挙げた。勿論、新しい方達も少なからずいる。
 それから時間もないので、まだ10時前だったけれど、ただちに話を始めた。。
「僕の夢の話は、ホームページなどで御存じだと思いますが、みなさん、この演奏会は、アッシジ演奏会同様、僕が勝手に自己実現のために起こした行動ではないのです。むしろこれは、神様からの至上命令であり・・・ということはですよ・・・この演奏会はうまくいくしかないのですよ・・・それだけではない・・・このプロジェクトに加わる皆さんひとりひとりの上には、神様の特別な恵みが降り注ぎます!約束します!だから素晴らしい演奏会になるように頑張りましょう!
それと、ひとりでも多くの人を、今からでも団員に誘いましょう!演奏会においても、できるだけ聴衆を誘い、ひとりでも多くの人と恵みを分かち合いましょう!」
と言って、その後の発声と練習はSさんに任せて、僕は練習場を飛び出し、東京駅に向かった。

 これを読んでいる皆さん!興味がある方は、今からでも全然遅くないので、是非、この合唱団に申し込んで、来週からでも練習に加わってください。これは、神様がやれっ!て言ってるんです。ということは、これに参加している人たち全員に特別な恵みが注がれているに違いありません。
 だから絶対良いことが起こりますよ!お金がもうかるとか、そういうことじゃないだろうけど、ある意味、人生の転機となる方もいるでしょうし、新しい出会いがあるかも知れないし、そういう劇的な事が起こらなくても、ジワッと幸福感に包まれるとか・・・僕なんか、自分で作曲しておきながら、Cantico delle Creature「被造物の賛歌」を頭の中で鳴らすだけでも、いいようのない「しあわせ」が自分の全身を包み込むのだから!

 さらに、名古屋のモーツァルト200合唱団員のみなさん!みなさんは、おととしのMissa pro Pace「平和のためのミサ曲」、昨年のCantico dellle Creature「被造物の賛歌」に続いて、今年の、まさに聖フランシスコ800合唱団の一週間前にTre Preghiere in Italiano「イタリア語の三つの祈り」を定期演奏会で演奏すれば、全て歌ったことになるので、優先的に受け入れますので、どうぞ申し込むだけ申し込んでください。あとのことはまた相談しましょう。とにかく、東京練習に何回出席しなければ乗せない、などとは言いませんから、安心してください!

浜松で「ヨハネ受難曲」三昧
 練習場を飛び出して東大前駅から南北線に乗り、後楽園で丸ノ内線に乗り換えて東京駅に行ったら、春休みで駅構内は人で溢れていた。これだもの、浜松に止まる11時03分発の「ひかり号」は、何日か前にEXで指定席を予約しようとしたが、すでに満席だったはずだ。それなので、今回は仕方なくグリーン車を予約したが、まあ、これから2日間に渡る合宿だから、エネルギーを貯めこんでおかないといけないので、かえって良かったなと思った。
 浜松に止まる「ひかり号」は、毎時東京駅発03分(新横浜21分)と決まっている。いつもだったら1時間早い「ひかり号」に新横浜から(10時21分に)乗って、浜松でのんびりお昼を食べてから、在来線で練習場に向かうのであるが、聖フランシスコ800合唱団のスピーチのために、今日は13時からのオケ合わせを、ちょっと遅れで入ることになっている。それなのでお弁当を買って新幹線に乗り込んだ。
 いいねえ、グリーン車は、ゆったりしていて!キャビンアテンダントがおしぼりを持ってきてくれる。顔を拭いて首筋を拭いて、それからゆっくり手を拭く。足を乗せる台があるので、靴を脱いで足を組む。

 さて、浜松に着いて練習場に向かった。今日は、富山在住の福音史家(テノール)の澤武紀行(さわぶ・のりゆき)さんが加わって、まず全体をオケ付きでザックリと通し、福音史家から合唱曲などの引き継ぎを確認した後、オケと合唱のメンバーは帰して、今度は僕の弾くチェンバロの伴奏のみで、澤武さんとの綿密な合わせを行った。
 本当は順番が逆で、この打ち合わせをした後でオケと合わせる方が自然なのであるが、オケ及び合唱団の練習時間があらかじめ決まっていたので、このままにした。ただ、オケのメンバーにとっては、次の日に再び冒頭からオケ付き練習で丁寧に通した時に、すでに流れが分かっていて、合唱曲への導入もスムーズであった。

 練習後、帰ろうとしたら、外は土砂降りの大雨!最近まで団長だった河野周平さんの車に乗り込むわずかな瞬間に、もうずぶぬれになるような勢いであったし、浜松駅近くのダイワロイネット・ホテルに荷物を持って降りるだけでも大変であった。
 幸い、このホテルはフロントが二階にあり、一階にファミリーマートと日本海庄やが入っているので、宿泊している僕と澤武さんは、外に出る必要がなくて助かった。だから、お互い荷物を部屋に置くとすぐに一階で澤武さんと待ち合わせし、一緒に日本海庄やに入った。
 そういえば、河野さんの車の中で浜松餃子の話題となり、何故輪の形に並んでいて真中にもやしが入っているのか、という話になったので、餃子専門店ではないのだけれど、日本海庄やでも餃子を頼んで、二人で分けて食べた。
 河野さんの話では、フライパンで焼くので、あのような円形に並べるのだそうだが、もやしについては誰も分からない。まあ、あのような並びでは真中に空間が自然にできるので、何か入れないと間が持たないので、もやしでも入れとけって感じかな?
 澤武さんとの話は、酔っ払ってくるにつれて活発になっていったが、彼はベルリンをはじめとして、主としてドイツでの海外生活が長かったのだね。また、バリトンの木村利光さんに師事したくて、東京芸大を受かっていたのに、あえて桐朋音大に入ったことで有名になったとも言っていた。食事の後は、お互いファミマでいろいろ買い込んでから別れ、それぞれの部屋に入った。


「日本海庄や」で


 彼は、花粉症も手伝って、声帯の状態が万全ではなく、今回の練習ではフル・ヴォイスではなく、声を抜いたり1オクターヴ下げたりしていたが、福音史家の様々な表情は確実に表現されていることは確認できた。それは彼の側にとっても不本意で、今後東京に出てくる用事があるので、彼の日程や空き時間が決まった時点で、あらためて会って、二人でコレぺティ稽古をする約束をした。

 翌日快晴、再び河野さんが9時に車で迎えに来てくれて、練習場に向かう。練習自体は10時から夕方まで。昨日全曲を福音史家と共に荒く通しただけであったが、今日は再び全曲を、今度は止めながら丁寧に通した。ソリストはアルトの三輪陽子さんとバリトンの初鹿野剛(はつかのたけし)さんが加わった。

 さらに今日は、第2部から登場するヴィオラ・ダ・ガンバの羽川恵子さんが朝から参加されたので、いたずらに待たせても仕方ないので、練習も第2部から始めることにした。全体練習の前に、羽川さんに担当していただく第20番のテノール・アリア(この曲はチェロで演奏されることが多いが、あえて羽川さんにお願いした)と、本来のヴィオラ・ダ・ガンバのソロが入る30番を一度合わせた。30番はアルトのアリアなので三輪さんにも歌ってもらった。

 さてそれから、あらためて止めながらの通し稽古を第2部から行っていった。合唱部分は昨日の強引な通し稽古が効いて、かなり良くなった。さらに僕が発音の事をうるさく言ったので、発音が良くなると音符もクリアになってくるし、つられて発声も良くなってくるのだね。本番に到達するであろうクオリティが僕のイメージの中で見え隠れしてきたぞ!

 すでにこのページでも何度も言っているけれど、あらためて「ヨハネ受難曲」の終曲のコラールは素晴らしいね。「マタイ受難曲」ではこれがないし、受難曲なんだからむしろイエスの死を悼んだ曲で終わって当然なのだけれど、それでも僕は個人的に、「ヨハネ受難曲」において、この曲があって本当に良かったと思っている。あらゆるバッハの和声付けしたコラールの中でも、最も天国的で清らかな曲に仕上がっている。
 僕はあえて、冒頭をピアノで歌わせ、前半繰り返し後でクレッシェンドをかけて、後半ではフォルテ、さらにフォルティッシモ、最後のフレーズich will dich preisen ewiglich!「私はあなたを永遠に褒め称えます!」では喜びに満ちた最強音で終わらせる。

 もはやイエスの存在は、生死を超えて、人間であることもはるかに凌駕し、大宇宙に永遠に燦然と輝けるおおいなる光そのものと成っているのである!

2026. 4.6



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